Vol.7 思い込み 【Part 2】
前回のあらすじ
ある選手が"肩凝り"というワードを知ってしまったが故に肩凝りの症状を発症してしまった。
その後肩凝りについて調べるうちに驚きの事実を突きつけられる…
前にも述べたがこの"肩凝り"というワード、日本特有の表現方法なのである。
つまりドイツ人にとって"肩凝り"というのは初めて耳にする言葉なのであった。
そして"肩凝り"の症状も知らないで今まで生きてきた。
ちなみに英語で言うと"肩凝り"は"stiff neck"という表現になるらしい。
そしてこの"肩凝り"という単語を大きく世に広めたのが、かの夏目漱石だったという説もある。※1
※1 参考文献⇨https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1981/44/4/44_4_361/_pdf
話を戻そう。
この文献にもあるように、"肩凝り"という症状自体が海外に無いというわけではない。
そもそもそういう言葉がない為に症状に気付いていない人が多いのだという。
人間の脳は何かに気付き、その物事を理解する事で初めてそのものを認識する。
例えば壁の向こうに人が居るのか居ないのか、それを確認する方法は壁の向こうへ行って視認するしかない。
視認することによって初めてそこに人がいるのだと判断する。
だがこの壁の向こうにいる人が、例えばよく出来た精巧な人形だったらどうだろう。
壁を越えて視認したはいいが、人だと勘違いする可能性もある。
今回のケースはこれとよく似ている。
「これは"肩凝り"と言ってこういう症状なんだよ」と教えてしまったばっかりに、それを信じ込んでしまった。
要は思い込みなのだ。
ちなみにこれと逆のパターンで"プラシーボ効果"というものがある。
日本名で"偽薬効果"。
一般的にもよく使われている言葉ではあるが、本来医療、薬学で用いられる事が多い。
例えば風邪を引いている患者に「これは風邪によく効く薬です。」と言ってただのビタミン剤を飲ませると、患者はそれを信じ込んで体調が良くなった気になる。
これを"プラシーボ効果"という。
実はこの心理学的効果、スポーツ現場などでもよく使われる。
例えばフィジカル、テクニック、スキルなどが優れている選手でもメンタルが弱く、お腹を壊しやすい選手などがいる。
そういう選手は決まって試合前などにトイレにこもったり、試合でパフォーマンスを100%発揮する事が出来なかったりする。
そのような選手に「これはお腹の調子を整えてくれる薬だから試合前に必ず飲むように。」と言って外見は薬とよく似ているフリスクを渡す。
するとその選手は試合前にトイレへ行く事も無く、むしろ目をギラつかせて試合に臨んで行くのだ。
ただしこの効果は100%どの選手にも通用するものではない。
そして薬(偽薬)を渡す側の話術でほぼ全て決まってしまう。
話術以外にも選手とドクター、もしくはトレーナーなどとの信頼関係も重要となる。
要は信頼できる人間の言う事は刷り込まれてしまうのだ。
私がドイツで経験したケースは"プラシーボ効果"とは逆の効果(悪い効果)として選手に刷り込まれてしまったが、ある意味で選手との信頼関係が築けていたとも言える。
だが、信頼関係があるからこそどのように言葉がけをするのか、その言葉を言ってしまったことにより今回のように悪い影響を与えてしまわないのかというのを指導者は再確認すべきだろう。
選手も安易になんでも信じるべきではない。
自分で考える能力をつける事も一流のアスリートになるには必須の能力だ。
何にでも"はい"と答えるのではなく、"どうして?"と疑問を持つ事が重要だ。
鈴木 翔